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そして、その時が来た。自力で歩けないシェパードはスタッフに抱えられてどこかに連れて行かれる。ずっと動かせなかった足が、宙を掻く。これから自分がどうなるか分かり、抵抗するように。連れて来られたのは、大型犬一匹が入れるくらいの密封された部屋。その部屋の名前はドリームボックス。シェパードはそこに寝かされる。身体が動かせないから、そこから逃げることも叶わなかった。ただ、じっとカメラを見つめていた。その視線を遮るように厚い扉が閉ざされる。そして。
「……っ」
瑠璃はテレビを消してテーブルに突っ伏した。
この先は見なくても分かる。ガスであのシェパードは殺されたのだ。
これが、人に見捨てられた犬の最期。外を自由に歩くことも許されず、飼い犬だったとしても主人に見放されたら最後、奇跡が起きない限り死ぬことしか選択肢はない。犬に権利はない。いつだって人が決める。恨み言を言う口も、生きたいと叫ぶ口もない。だって犬は喋れないのだ。犬だけじゃない。言葉を伝えられるのは人だけだ。
そう、人がいつだって動物の自由を奪う。自由を奪うのが人なら、彼らを守ってやれるのは果たして誰か。
「……人だ」
瑠璃は立ち上がる。行き先は決まっていた。
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