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ドーベルマンは弥助の言葉にビクリと身体を強張らせた後、すぐに何処かへと走って行った。
「知り合いですか?」
「んなこたどうでもよろしい。弥助、なんて言いました?」
「ご、ごめんなさい」
「勘弁してくださいよ。弥助が見つけてなかったらあんた今頃血塗れですよ。あの犬めちゃくちゃ強いんですから。……まぁ、だいぶ弱ってましたけどね」
ダルメシアンの姿のままの弥助にお説教され、瑠璃はなんとも言えない気分になった。だいぶシュールな絵面だ。その後も弥助は小言を続けるが、瑠璃は聞いていなかった。
「聞いてますかぁ瑠璃さん……瑠璃さん?」
瑠璃の異変に弥助は気付いた。そして、その理由も。
(なんだこりゃ)
空気に電流が走ったような、そんな感覚だ。だが、そう思っているのは弥助だけのようだ。瑠璃はただ必死な顔で何かを探している。鈴の音だ。瑠璃は鈴の音に反応しているのだ。
何かが近付いてくる。弥助は思わず身構えた。
「……瑠璃さん、弥助の後ろに。ちょっとこれは普通じゃない」
だが瑠璃は弥助の声を聞いていない。何かが来る。
「瑠璃さん!」
それは現れた。瑠璃はその生き物から目を離せない。
「嘘……お前、もしかして」
琥珀色の瞳をした、黒猫だ。
「瑠璃さん離れろ! その猫は駄目だ! すぐに離れ──」
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