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細めていた黒猫の目が見開かれ、弥助を捉える。瞬間、弥助は金縛りにあったかのように身体が動かせなくなった。それだけではない。声すら出ない。
(参った。なんでこんなとこに、あんなものがいるんだ。あんなの、俺の勝てる相手じゃない)
黒猫は瑠璃を見ながら、ゆっくり歩き出す。まるで、導くように。
(何をする気だ。その人に手を出すな。若の貴重なご友人なんだ)
弥助の思いも知らず、瑠璃はその猫を追う。猫は度々立ち止まり振り返る。瑠璃が着いてきているのを確認したら、また歩き出す。その繰り返しだ。
そしてやって来たのが、例の神社だ。
「ここ……あれ?」
少し目を離した隙に猫がいなくなった。
階段の先にちりんと鈴の音が鳴り、瑠璃は慌てて階段を上る。
いた。
黒猫が、ではない。シェパードがだ。
「瑠璃……?」
間違いない、ジュンだ。
ジュンは目をぱちくりさせ、戸惑っている。
(あの猫、ジュンの場所教えてくれたのか?)
「瑠璃……なんで? どうしたの? あ、えっと……迷子? 俺、お家まで送ろうか? だ、大丈夫! お家に入ったりしないから。ご飯もちょうだいなんて、もう言わないから。安心して。困らせたり、しないから……もう」
ああ、そうだ。こいつは犬なのだ。いつも真っ直ぐで、素直なのだ。
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