855人が本棚に入れています
本棚に追加
/1873ページ
「早く……帰った方がいいよ。暗くて、危ないよ。変な人が出てきたら大変だよ。早く寝ないと、明日疲れちゃうよ」
瑠璃は俯いて拳を握り締める。
ジュンは犬だ。人に姿を変えられるから、こうして言葉を発する事が出来る。他の犬には出来ないことだ。
テレビに映ったあのシェパードもこうだったのだろうかと瑠璃は思う。捨てられても尚恨み言は言わず、自分を見捨てた主人達の身をこうやって案じていたのだろうか。最期の時まで、自分を裏切った主人達を想っていたのだろうか。
「犬って、ほんと馬鹿」
「え。あ、ご、ごめん。でもね、俺が馬鹿なだけで、犬は馬鹿じゃないよ」
「馬鹿だよ。ほんと、馬鹿」
涙が出そうになる。本当に馬鹿みたいに優しい生き物だ。
「特にお前は極めた馬鹿。ほんっと困る」
「う……うん」
「それを承知の上で言う。……俺のパートナーにならないか」
ジュンが瑠璃を見たまま固まる。だから瑠璃は言葉を変えてもう一度言う。
「俺のパートナーになってほしい」
ジュンが俯いて、震える。
「……俺、また瑠璃を困らせちゃうかもしれない」
「知ってる」
「俺は馬鹿だから、弥助のおっさんみたいにはなれないし」
「俺は弥助さんじゃなくてお前に言ってるんだよ。……返事は」
「でも、なんで。俺……あんな」
「お前に死んでほしくないからだよ」
最初のコメントを投稿しよう!