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「瑠璃さぁん! ご無事か!?」
階段を降りていれば、弥助の声。
「弥助さん! す、すみません! 今から弥助さんのところに行こうと。ほんとすみません!!」
「あー……全然大丈夫そうですね。上手く纏まったようで何より」
「弥助のおっさん! 俺、瑠璃の犬になれたよ! 野良犬じゃなくて、瑠璃の犬になったんだ!!」
「そりゃよかった」
弥助は人の姿になり背伸びをひとつ。そして欠伸。もう三時過ぎだ。
「弥助さん、本当にご迷惑をかけました」
「ま、こういう振り回され方は若のお陰で免疫ついてるんでね。お気になさらず。さて、弥助は帰りますよ。ジュンさん、これからは瑠璃さんが危機の時はあんたが身体を張って守るんだ。いいな?」
「うん!」
「よろしい。それではおやすみなさい」
それぞれが、それぞれの居場所に帰る。静かになった神社には、鈴の音がひとつ。
「貴方はこれで良かったの?」
いつも階段下にいる男が、鈴の音に向かって話しかけた。
「勿論さ。瑠璃が望んだことだからね。僕はこれでいいんだよ」
「そう。貴方がそれでいいなら、私も何も言うことはない」
「僕を気にかけてくれるのかい?」
「それはそうさ。だって貴方は、私がここに来て初めて出来た友人なのだから。それに、私の主は少々貴方に興味があるようでね」
「ふふ、僕のことはいいよ。犬を観察しなよ。きっと楽しい歌が作れるよ」
「そうだね。まだ始まったばかりだからね」
男は本を開き、サラサラと何かを書いていく。書き終えると一息吐き、「では、またね」と夜の闇に姿を溶かした。
そう、まだ始まったばかりだ。まだほんの一ページ。
<第2話へ続く>
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