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「そりゃあ良かった。否定されてたらあんたのこと──殺さなきゃなんなかった」
ぞっとする程冷たいルスランの声に、吟遊詩人は怯える事なく相変わらず穏やかな笑みを向けていた。
「回避出来て良かったよ」
「それな」
「しかし驚いたよ。貴方を降ろすなんてね」
「ボスが犬を降ろせる程の力が回復したら、事が急速に進む。そっからが本番だ。戦争が始まるぞ」
「そうか」
「驚かねぇのかよっ」
少しつまらなそうにルスランが唇を尖らせると、吟遊詩人は軽く首を傾げてまた微笑んだ。
「戦争は珍しいことではないからね。先程も言ったけれど、私は関与するつもりはない」
「人間が大量に殺されても?」
「ああ。今までもこれからも私は、思想のぶつかり合いで産まれる悲劇に、それに飲まれる人々の涙に想いを馳せながら唄にするだけだよ。私という存在は、そのような物だから。自然の流れには抵抗しない主義なんだ。私はただ共に流れるだけでいい」
ルスランはジャーキーを噛みながら腕を組み、「んんー?」と唸った。
「ごめん。意味不明」
「あはは」
「難しい話はいいや。腹の足しにもならねぇし」
「そうだね」
「んじゃま、機会があればまたな」
「ああ、また、是非」
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