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第19話:私とダンスを
春斗は軽く息を吐き、トントンと書類を整え持ってきた鞄にそれを入れて立ち上がる。本日、教員の勉強会。他校の教員が集まり、情報を共有したり問題を話し合ったりするのだ。大した内容でもなかったのに同じような話ばかり繰り返す他校のベテラン教師。やたら長かったその会が漸く終わって春斗は心底ホッとした。
「片瀬先生、お時間少しいただいても?」
「はい? 何か?」
勉強会会場は、とある私立のカトリック系の高校だ。その高校の中年独身女教師がニコニコしながら春斗に近付き、春斗は笑顔で応じる。だが心の中では舌打ちをしていた。
「同じ音楽教師として、授業のことちょっと話しません?」
「前回もたっぷりしませんでしたっけ」
「うふふっ、恒例にしちゃいましょうよ。ね?」
ね? じゃねぇよババァと心で毒を吐くも、やはり春斗は王子スマイルを忘れない。
「まいったな。前回話し尽くしてしまいましたよ」
「じゃあ私が話すわ。あ、今夜よかったら飲みに行きません? いいでしょう? 行きましょうよ」
言いながら、女教師はそっと春斗の腕に触れる。
「先約がありまして。実に残念です」
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