第23話:重ねた面影

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第23話:重ねた面影

 女は、会社のトイレで化粧を直す。端から見て随分と気合が入っているようだ。様子を見ていた中年の女が、化粧を直す若い女に微笑みかける。 「あらどうしたの琴葉(ことは)ちゃん。合コンでもするの?」 「違いますよー。付き合ってる人いますし」 「そうだったわね。確か、付き合って長いんだっけ」  琴葉と呼ばれた女が口紅をメイクポーチにしまって、ぐっと拳を握る。 「なんか今日、プロポーズされる気がするんですっ」 「あら」 「渡したいものがあるって。話したいことがあるって……言われちゃったんですよぉっ」 「それ絶対プロポーズじゃない! やったわね!」 「そうですよね!」  女二人で暫くきゃあきゃあはしゃいだ後、琴葉は会社を出る。女性物の下着メーカーの会社である。本当は家に一度戻って着替えたかったが、時間がない。琴葉は今にもスキップをしそうな軽快な足取りで、交際相手と待ち合わせをしているフランス料理店に向かった。  相手は大手企業の跡取り息子。ルックスも良いし、金も山程ある。琴葉は別に金目的で付き合っていたわけではなかったが、無いよりは良いに決まっている。しかも優しい。非の打ち所がない、完璧男だ。 「いらっしゃいませ」     
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