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「なんで? なんでなんナチはん……なんでそないな事しはるの……? 数年前から起きてる事件、ナチはんだったんどすか……?」
「……」
「夢なら覚めて欲しい……っ。嘘やこんなの……」
「……これが俺にくだされた命令だから」
「捨てられた言うてはったやないどすか! どないな命令受けてはるのかうちには分かりしまへんけど、もうナチはんがそないな命令律儀に聞く必要ないわ!」
「それでも俺は……犬としての居場所を失いたくなかった……っ」
菊江は黙ってナチを見る。随分と追い詰められた表情だった。
「もっと頑張れば、また……いつか……認めて……」
(ああ、哀れやなぁ……)
利用されている事を知りつつ、なんでもしてきた。やりたくもない殺人をやってきた。全ては認められる為。なのに認めてはもらえなかった。
ずっとその繰り返し。同じ道を苦しみながら行ったり来たりしていたのだ。もうナチには、その道以外の道を歩くことが出来なくなっていた。そこを歩かないと狂いそうな程不安になるのだ。その道すら消えてしまうのではないかと。その道が消えてしまったら、自分にはもう歩く道が残されていないと。
(ああ……辛い。苦しい。うちに出来る事なんてなんも……)
〈第28話に続く〉
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