第4話:人間の玩具

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第4話:人間の玩具

***  瑠璃は自分の書道作品を売ったりもしている。だがガンガン売れているわけではない。一部根強いファンがいるお陰でまぁちょこちょこ売れている感じだ。  そして本日、ファンが増えた。 「いやあ一目惚れしましてねぇ」 「有難う御座います」  瑠璃は五十代くらいのメタボ男に手を握られていた。少し前に知り合いの好意で個展を開いた瑠璃。その時に来場した少ない客の一人らしい。その際瑠璃が書道教室を開いている事を知り、今日わざわざ足を運んできたというのだ。メタボ男は汗を拭いながらいい笑顔。そして名刺を差し出す。 「私、こういう者です」 「あ、有難う御座います」  名刺を見て瑠璃は目を丸くする。どうやらこの男、高校の校長らしい。 「校長先生なんですね」 「はい、校長先生なんです。あのぉ、青木さんに依頼したい事がありまして」 「あ、はい。うかがいます」  仕事か!? と、瑠璃は目を輝かせた。仕事を貰えるのは素直に有難い。 「うちの高校で一日だけ書道教室を開いていただけませんか?」 「え」  思ってもいなかった仕事内容に、瑠璃は間抜けな声を出してしまった。校長は随分と真面目な顔をしている。 「今はなんでもパソコンやらスマホやら。字を書くという楽しみが失われて来ています。昔に比べ、漢字の苦手な子も増えていましてね。字が汚い子も心なしか増えた気がします。これは実に嘆かわしい事だと、私は声を大にして言いたい。字はその人の心を表す。青木さん私はね、字を書く楽しさを私は子供達に教えたいのです」 「校長先生……」  字は人間が産み出した最上級のアートであると思っている程字を書くことが好きな瑠璃にとって、校長の言葉は胸に突き刺さった。 「仰る通り! 字は素晴らしい! 書道はアートです!」 「まさしく!」 「字が綺麗だと手紙を書く事が楽しくなる! 手紙は古い?否! 断じて否! 電子メール? 片腹痛し! 日本人の真心はいずこに! 字は人類の財産! いとかなし!」 「まさしく、まさしく! その心いとあわれなり!」  何故か時代劇のような話し方をする二人を止めるものは誰もいない。 「分かりました! 俺でよければ引き受けさせていただきます!」 「あなー! ありがたし! ありがたし!」
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