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第6話:知るべき痛み
自称吟遊詩人の男が、石に腰掛け分厚い本を開く。並んでいる文字は全て古代のギリシャ語だ。男は懐から
羽ペンを出す。そしてその羽ペンに微笑みかけた。
「おや。何かあったのかな?」
当然ペンが話すはずもなく。だが、ペンはふわりと宙に舞った後、独りでに本に何かを書いていく。男は綴られていく文字に目を通し少しだけその目を細めた。
「それ、私が言った言葉じゃないか。その言葉とこれから起こること、何か関連でも?」
本にはこう記されていた。
──友の為に死ぬことは然程大きな困難ではない。その為に死ぬ価値がある程の友を見つけるよりは。
更にペンはこう綴る。
──過ぎ去りし事は過ぎ去りしことなれば、過ぎ去りし事としてそのままにせん。
「いやだからそれ私が言った言葉。どういうこと?最近手入れを怠った私に嫌がらせかな。無駄にページを使わないでくれ。主に叱られてしまう」
──……バーカ。
男は笑顔をひきつらせ、抵抗するペンを無理矢理懐にしまう。背後から聞こえたクスクスという笑い声に、男は溜め息を吐いた。
「いつ見ても特殊だね、それ」
「今度やったら燃やそう。私は綴っている物語の途中を邪魔されるのが一等嫌いでね。例えそれが相棒であっても許さないさ。やれやれ、ページが無駄になってしまった」
「彼、君に何かを伝えたかったのではないのかい?」
「どうだろう。これ、私に似て気まぐれだから」
「ふふ……っ」
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