第16話:狼の恩返し

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第16話:狼の恩返し

「クソ……ッ」 「──っ」  みぞおちを思い切り蹴られ、アドルフは踞る。暴行されるような事はしていない。ただヴォルフの気が立っているからだ。だから暴行をされる。このようなことは日常茶飯事だ。理不尽な暴力のせいで、アドルフの身体は痣だらけである。 「なんだその目は」 「……睨んでるわけじゃない……。不快にさせたなら謝る」 「あ?」  再び蹴られた。ルスランによって負傷させられたからというもの、アドルフへの風当たりが更に強くなった。  アドルフはもう、自分の存在する意味が良く分からない状態になっていた。メルはアドルフに依存している。が、その目に映っているのはアドルフではない。映っているのは嘗て自分が守れなかった、命より大事だった仲間達の亡霊だ。アドルフという存在を愛しているわけではない。無理矢理アドルフに重ねている仲間達を愛しているのだ。  一匹には別物の影を重ねられて、縋られ。もう一匹には存在そのものを疎ましく思われ、暴行される日々。 (あとどれくらいだろう)  いっその事、殺してくれとさえ思う時があった。アドルフには自分はどうして生きているのだろうと、ここのところ毎日思っていた。一方は殺そうとし、それを受け入れようと思ったらもう一方が生かそうとする。一方が生かそうとすれば、もう一方から死を望まれる。 (あとどのくらい、続くんだろう)  地獄みたいだと心でアドルフは呟く。 (俺はどうするのが正解なんだ)  答えをくれる者は誰も居ない。問いかけても返ってくるのはいつも痛みだけだった。
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