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数日後。
「言っておくが、やったのは坊っちゃんじゃない」
「知ってますよ。犯人は間違いなくメリッサさんだ」
高校生八人が狼に食い殺されたと、大きく報じられた。樹は公園のベンチに腰掛け、弥助を見る。
「弥助さん」
「なんですか」
「俺に、主人が出来た」
弥助が樹の言葉に目を見開く。
「今、なんと?」
「俺に主人が出来たと言ったんだ」
樹が、正式に紗佳の犬となることになった。弥助は樹の両肩を掴み、切羽詰まった表情で見据えた。
「記憶がある者とない者では処罰の度合いが違う。下手したらあんたまで処刑されるぞ樹さん。あんたならまだ引き返せる。だからあんたは」
「昔から、坊っちゃんは一度決めたら梃子でも動かない。その坊っちゃんが主人を得た。その先は地獄だ。きっと坊っちゃんに地獄を見ることになると説明したとしても、考えを変えたりはしないだろう。坊っちゃんはいつもそうだった。なら俺は、坊っちゃんと共に地獄を歩もうと思う」
「樹さん……」
「俺にとっての地獄は、坊っちゃんが苦しい時に横にいれないことだ。共に歩けるのなら地獄もそう悪くはない」
弥助は黙るしかなかった。深い溜息を吐いた弥助は、真っ青な空を見上げた。
「馬鹿ですなー……」
「弥助さんだけには言われたくないな」
「ぐうの音も出ませんな」
はらりと落ちた紅葉を見て、弥助は目を細める。ジュンが瑠璃と出会ってもう三つ目の季節なんだなと思いながら、弥助は目を閉じた。
「無事に桜が見れますように」
「そうだな」
〈第20話に続く〉
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