踏み切りにつかまりたい

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踏み切りにつかまりたい

カンカンカンカン 踏み切りの閉まる音が聞こえて、思わず舌打ちしていた。こんなに踏み切りにイライラしたのは、そういえば久しぶりかもしれない。踏み切りを渡れば、最寄駅の萩原天神駅。駅を降りれば田んぼが広がる、片側にしか改札がない、無人駅。ここに住むことになるまで、降りたこともなかった。阪急沿線に住んでいた私にとっての憧れの永住地は、北摂地区だった。まさか自分が南海沿線に住むなんて。引っ越した当初はそんな気持ちだったが、流されやすい私。一年経てば、ありのままの自然が残る、のんびりした萩原天神駅に愛着が湧いていた。最近は、息子の電車ブームにこの駅は一役かっている。駅の隣にあるスーパーに行く途中、改札横の踏み切りを、息子は、電車が来ないか、踏み切りにつかまらないかと期待している。 さて、なんとか間に合った電車の中で、滅多にない自分の時間をどう満喫しようか考えるだけでワクワクしていた。 今日は、会社の同期の結婚式だ。同期といっても、元同期。私は二年前、妊娠を機に仕事を辞め、結婚した。色々と順番は違ったけど、今は幸せ。のはず。幸せ!と言い切れないのは、いつのまにか積み重なったストレスに、昨日気付いてしまったからだ。 いつものように、食事を終え片付けをしていた。目の前では、仕事から帰って完全オフモードの旦那が、寝転びながらテレビを見て、携帯をいじっている。その横には、眠くてぐずっている二人の子供。いつもの光景だ。どうして、子供が横でぐずっているのに、かまってやらないのか、平気で携帯をいじれる神経がわからない。でもいちいち旦那に言うのも、もう疲れた。その時、テレビで誰もが知ってるテーマパークのCMが流れた。しらず、涙が溢れていた。え、やばい弱ってる。夢の国で幸せそうな笑顔をみせる家族のワンシーンに、心が揺さぶられてしまった。 つい2年前だ。収入も福利厚生も安定した職についていた独身時代、夢の国だろうが、外国だろうがどこにでも自由に行けた。思いつく贅沢は、だいたいやってこれた。人に迷惑さえかけなければ、それこそ自分最優先で生きてたなあと、今になってつくづく思う。時間もお金も、自分のためだけに使える、そんな日はもう二度とこないんだろうな。おそらく、心に余裕がある時にはそれを幸せと感じられるのに、今は辛いと感じてしまう。そう、疲れているのだ。涙が溢れて初めて、自分が疲れていることに気付いた。
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