会社(の)事情(第一話)「そら、エライコッチャ!」 の話

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 因みに、昔の私は超が付く寡黙な人間。大学も技術系学部だったし、本を読むのが好きなので、しゃべる必要がなかった。用事があれば、その内容については説明的に人と喋るけれども、用がなければ喋らない。  要するに、雑談というのをようしない。何をしゃべって良いか分からないからだ。  女と会う機会が少なかったから、私の口下手は表面化しなかった。が、初めてのデートとなって、問題が深刻化した。学校の試験勉強みたいに前夜から悩んだ。女といて何もしゃべらないとなると、喋らないというだけで雰囲気が不味くなるのを、経験的に知っていた。  オスの本能として、女を愉しませなくてはならない義務感を覚えた。考えた末、事前に雑談の準備を周到に行う事にした。  例えば、明日姫路城に遊びに行く予定とすると、事前に歴史を調べて暗記した。デートでそれを上手く喋る為だ。単に説明するだけだと教科書みたいになるから、所々にユーモアや冗談を混ぜる工夫をした。本当はそうではないのに、「面白い人」だと錯覚させる作戦だ。
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