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その言葉を聞いた時は正直身構えてしまった。大川君は僕以上に女子に興味がない高校生であった。もしかしたら、この部屋に二人きりというシチュエーションで大川の秘めた思いを受け止めなければいけないのではないかと内心ドキドキしていた。しかし、そんなのは実に杞憂だった。あとに続いた言葉は、「俺、東京の専門学校行くことになったからもうこんな風に遊べんわ」
であった。それを聞いて、「ああ、なんてことだ…。僕は親友のことを勝手に勘違いして変な想像をしてしまったんだ」と猛省し、友情関係が壊れないことにホッとした。しかし、これは唯一の親友が遠くへ旅立つという事実であり、ある意味別れ話であった。つまり、僕は唯一の拠り所を失うということだった。
そして高校卒業後の話となる。大川君はクリスマスイヴの報告通り夢を叶えるため上京し、僕は地元の県立の教育学部へと進学した。僕は理系寄りの人間だったので数学専攻を選んだ。将来の夢というわけでなかったが、僕みたいな真面目人間は教員が向いているのではないかと思ったためだ。僕は淡いブルーのシャツにチノパン、そして黒縁眼鏡、もちろん髪は染めないという如何にもモブキャラ大学生へと進化した。大川君のような苦楽を共にするような親友はできなかったが、それでも大学生にまでなると周りはもういい大人であるから仲良く会話するぐらいの仲間は何人かできる。そして、こんな僕にやっと春の兆しが見えた。『麗ちゃん』、小柄で黒髪ロングを後ろで縛り、紺色のリボン付スカートがよく似合う女の子であった。大学三年の一月から話すようになり、そこから進展。確か仲良くなるきっかけは、講義中に消しゴムを失くしてしまった彼女に僕の消しゴムを貸してからだと記憶している。僕みたいな人間にも屈託のない笑顔で話しかけてくれる。童貞野郎が落ちないわけがない。僕は見事に麗ちゃんに惚れてしまい、できることなら彼女になってほしいと強く願っていた。そして、ある日奇跡が起きた。飲み会の帰り偶然麗ちゃんと二人で帰ることとなり、お酒でほんのりと頬が赤くなった麗ちゃんは上目遣いでこう僕に尋ねた。
「私達、付き合ってるって噂されてるみたいだけど、実際どうなの?付き合ってるのかな?」
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