第1章 輝くクリスマスは過去のもの

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最初はこの不意の質問で顔が一瞬で紅潮してしまった上にしどろもどろに  「は?」「え、何?」 と情けなく繰り返すしかできなかったが、麗ちゃんは目を逸らさずこちらを見つめ続けた。僕は観念して唾をごくりと飲み込み勢いに任せて返した。  「それなら、付き合おうか?」  「…うん」 恐らく今までの人生で一番幸せな瞬間でだったに違いない。こうして僕と麗ちゃんは真面目なお付き合いをさせてもらうこととなった。これは大学三年の二月のことだった。「今年のクリスマスは夢にまで見た恋人同士で過ごせるんだ!」と思うとクリスマスまで待ちどしくて待ち遠しくてあの小学生の頃のようなキラキラとした輝かしい特別な感情が脳裏に浮かんだ。ああ、ああ、早く来い!クリスマス!  時は過ぎ大学卒業後1年目、僕は辺りが真っ暗ななか街灯がぽつぽつとしかない暗くて寂しい住宅街の狭い道の片隅にいた。マフラーで顔を埋めながら今までのクリスマスの経歴を走馬燈のように思い出していた。我ながらドラマのような胸が高まる展開だ、続きが気になる。そして、この凍える空気の中で僕はというとある一人の女性が現れるのを待っていた。10分程経っただろうか。かわいらしいパステルイエローのアパートの2階の一室から紺色のワンピースとコートを着た一人の女性が出てきた。やけに着飾っている印象を受けるがそれもそのはず、今日はクリスマスイヴだ。いつもよりオシャレな恰好をしたいというのは女心だろう。僕は女性が階段を下り、赤いヒールでカツカツと音を出して街の方へ向かうのを見送る。そして、SNSの入力画面に文章を打った。 『今日は彼女とデート、行ってきまーす』 僕はその場から街の方へ歩く。彼女を追うためだ。しかし、このサプライズを失敗しないためには彼女とは別のルートでなければならない。僕が不安に駆られ少しだけ振り返ると黒いニット帽、黒ジャンパー、黒ズボン、黒いスニーカーと全身真黒な長身の男が彼女の部屋のベランダに背中を丸めた状態でいるのが見えた。その男はこちらの目線に気づくと早く行けと手でジェスチャーをする。それを受けて僕はこくりと頷き足早に立ち去る。僕が今現在何をやっているかというと、この男の助手、つまり空き巣の助手である。クリスマスだというのに。
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