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手持ち花火をすべて終えた時には、濃密な黒だった空は青みがかり、ところどころに赤が燃え始めた。
朝焼けが広がり始めていた。
少しずつ流動的に広がる朝焼けを眺めていると、父がコーヒーを作ってくれた。
猫舌の私を気遣って少しぬるくしてくれた特性コーヒー。
その温度はまるで、人の手の温もりのように優しくて暖かい。
「ありがとう、ちょうど温かい物が飲みたかったの。」
「おう、俺の特性ブレンドだ。冷めないうちに飲めよ。」
父にそう言われてコーヒーに口を付ける。
ほんの少しのほろ苦さとミルクと砂糖がふんだんに使われたお節介焼のような甘さが口に広がる。
(あぁ、お父さんのコーヒーだ。)
どうしようもなく甘くて、優しすぎる味。
「相変わらず、甘すぎるくらいに甘いコーヒーだね。」
「人生もコーヒーも甘いほうがきっと良いだろ。」
「なにそれ、格言みたいだね。」
なんとなくおかしくて、私がそう言うと父は嬉しそうに笑った。
「おう、俺の人生の格言だ。」
「なんか、親父臭いね。」
「親父だからな。」
そう言って二人で笑いあった。
何にも代え難い温かな時間だった。
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