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泣き止んでからしばらくすると、線香花火を見つけた母は愛おしそうに呟いた。
「線香花火、懐かしい……一本貰うわね」
そう言って、線香花火に火を付ける。
「知ってる?線香花火はね、さよならの代わりの音を知っているのよ。」
父と同じことを言う母に私は少し驚いた。
「うん……さよならを一瞬のものにして、もう一度会えるようにするんだよね。」
そう続けたら、今度は母が少し驚いた表情をしてから嬉しそうに笑った。
「あら、知っていたのね。あの人から聞いたのかしら。でもそれ私の受け売りなのよ?」
自慢げに母は言った。そういえばこの話をしていた時、父はどこか懐かしそうだった。
「高校卒業の時かしらね。あの人が地元を離れる一日前に花火をしたの。そういえば、あの時は三月の終わり頃で朝焼けもとても優しかったわ。」
母があの時の私と同じことを言っていて驚いた。それと同時に、とても幸せなものが胸の奥から溢れてきた。
父は本当に大切な思い出を私にくれていたのだ。
そのことが心の底から嬉しかった。
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