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「生まれ変わっても、絶対あの人と結ばれてみせる。絶対あなたを産んでみせる。私たちは家族なの、ずっと、ずっとね。だったら、こんなさよなら一瞬のものにしちゃいましょ。」  母はそう言って線香花火に火をつけた。その姿はとても強くて美しいと思った。 母の言葉は余りに荒唐無稽で、独善的で、非現実的だ。それでも母の言葉には絶対の力があると信じられるほどの強さを感じた。 濡れた心に風が吹いて、前を向けると、そう信じられた。 「そうだね……うん、絶対そうだ。」  私は涙を拭いて、線香花火の最後の一本に手を伸ばす。   (そうだ、こんなさよなら、一瞬のものにしてしまおう。) そう願って線香花火に火をつける。 さよならという言葉は余りに寂しくて、悲しい。だから線香花火はその代わりの音を知っていて、さよならを一瞬のものにしてくれる。 だから私が父に伝えるべき言葉は別れじゃない。 「またね、お父さん。」  確かな願いを込めて、八月の空に手を伸ばす。鮮明すぎる赤はもう怖くなかった。
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