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父の葬儀の全てが終了したのは八月の下旬だった。 ヒグラシの鳴き声が響き、夏が死に始めていた。  実家の縁側に座って父の好きだった甘すぎるコーヒーを飲みながら、私は朝焼けを見ていた。  八月の空はとても低い。手を伸ばせば届いてしまうのかもしれないと思うほどに。  でも私はその空に手を伸ばすことは出来なかった。 朝焼けの鮮明すぎる赤がどうしようもなく怖かったのだ。  そんなことを父に話したら、きっと笑うだろう。 遺影の中で見せる笑顔のように、優しく微笑んで「朱音は面白いことを言う奴だな。」なんて言って折角梳かした長い髪をクシャクシャに撫でるのだ。 そこまで想像して、喉の奥にせりあがってくる熱い何かを私は必死に飲み込んだ。そのせいで力が入って、掌で握るそれを危うくダメにしてしまうところだった。  父の笑顔、朝焼け、甘すぎるコーヒー、そして掌に握られた線香花火。半年前と変わらないものがすべてここにあった。  線香花火に火を付けて、あの日の父の言葉を思い出す。大切に、慈しむように反芻する。 「……さよならの代わりの音。」
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