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「……私、本当は少し怖いんだ。一人で本当にやっていけるか不安で。」
気づいたら、泣きながら呟いていた。
そう、私は怖いのだ。父と離れることが、母と離れることが。一人になるということが。
「大丈夫だよ。」
そんな、ありきたりの言葉を今までで一番優しい微笑みで父は言った。
けれどそこにはありったけの『大丈夫』が詰め込まれているような気がした。
父は私の頭に手を伸ばすと、いつもみたいに髪をクシャクシャにしながら乱暴に撫でて、いつものように笑う。
私はそれだけで救われてしまう。
「キツかったら、逃げたくなったらいつでも帰ってこい。そんで逃げ疲れたら、また少しだけ頑張れるように俺や母さんが支えてやる。お前がいつでも前に進めるように背中を押してやる。こうやって、花火でもしてな。」
父の言葉が私の中に溶け込んでいくのを感じた。
それだけで涙は完全にその流れを止めた。
あれほど自分の身を蝕んだ不安が私の中から消えていた。
「うん、絶対。約束だからね。」
私はこの約束を疑わなかった。
これが最後の思い出だと想像すらもできなかった。
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