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前編
弓使いのヴィントは、自由都市と呼ばれる街ラーマへ向かう旅の途中で、サキルと言う名の子供を拾った。
いつもなら、浮浪者など見て見ぬふりをして通りすぎるヴィントだったが、その日、なぜか気にかけてしまったのは、今思えば運命の悪戯か。
ボロ雑巾のように道端に丸まり、呻き声をあげるその浮浪者を横目で見て、一度は通り過ぎたのだが、暫く進み、やはり思い直して引き返したのだった。
「おい、お前、生きてるか」
生を受けて三十余年。戦乱に巻き込まれたり、護衛をしたり、賊を倒したりと、流れの傭兵のような生き方をしてきたヴィントにとって、浮浪者の生き死にはどうでもいい事だったはずだ。
しかし今、何故か足を止めてうずくまるそのボロ雑巾に声をかけている。
自分でもよく分からなかった。
「おい! どこか怪我でもしているのか」
そのボロ雑巾を軽く揺すると、小汚い布の奥から「うぅ……ず…みず…」というか細い声がする。ヴィントは安堵して溜息を吐きだした。どうやら飢えているだけらしい。
「ほら、水だ。飲めるか」
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