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【番外編1】邂逅の朝日
その日、まだ朝日も登らない静まり返った薄闇の中、北の大国アドニスの南方にある名もない小さな集落から、1人の小さな子供が転げるようにして逃げ出した。
まだ年端もいかないその子供は、何か特別な花で染められた薄紫色のワンピースを身に纏い、銀色の真っ直ぐな髪を乱して、集落の入り口を知らせるささやかな2本の杭をすり抜け、なだらかな坂道を足をもつれさせながら駆け下りていく。
何度も何度も集落を振り返り、小さな身体をさらに小さく丸めながら、必死に走り続けた。木立を縫うようにして走り続け、やがて大好きだった野原に出ると、草の香りが胸いっぱいに広がり、思わず足を止めてしまう。
両親と、この野原で野草を探したり、染物に使う染料の花を探したりした楽しい思い出が一気に蘇り、子供はこみ上げる涙を我慢できなかった。
なんでこんな事になってしまったんだろう。
なんで私たち家族だけ、こんな目に合うのだろう。
子供は、集落に捕らえられた父母の事を想い、嗚咽を漏らした。そのままうずくまってしまいそうになったその時のこと。
『逃げなさい!! 早く!!走るの!真っ直ぐに走って野原を抜けていくのよ!行きなさい!その先にサキルの運命があるのだから!』
心に直接響いたのは母の声。滅多に使うことのない特別な力で呼びかけられ、サキルと呼ばれた子供は、ハッと顔を上げた。
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