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なくなった足
「千恵ちゃん、そんなに急いでどこか行くの?」
学校からの帰り道、追い抜いた雪乃が話し掛けてくる。
「あ、雪乃ちゃん。今日は家に本棚が届くの。だから急いでるんだ」
千恵は少しスピードを緩めながら応えた。
「本棚?」
「うん。お母さんが持ってた本を全部千恵が貰って良いことになったから、それが入る大きい本棚なんだ」
千恵の母親の葬儀を思い出し雪乃は胸が苦しくなる。
「そうなんだ。楽しみだね本棚」
うんっと返事すると同時に千恵が急に立ち止まったので千恵の背中に雪乃がぶつかりそうになる。
「ねぇ、雪乃ちゃん。あそこの家のお姉ちゃんって足無くなったんじゃなかったっけ?」
その視線の先に女性が歩いている姿を見て雪乃も驚く。
「ほんとだ。坂木さんのお姉ちゃんは、小さい頃に事故で切っちゃったって、お母さんたちが言ってたよ」
うんうんと千恵も頷く。
どこか身を潜めるようにして歩く女性に違和感を感じた千恵は先日聞いた噂話を思い出した。
「ねぇ、私この間、お隣のお姉ちゃんに聞いたんだけど」
「なに?」
「フリマアプリってやつで、なくしたものが何でも注文できるらしいよ。もしかして……」
そう言って無言で指差す千恵の仕草に雪乃が目を丸くした。
「えー。それって、切っちゃった足を注文したってこと?」
雪乃が話終わらないうちにバタンとドアがしまり二人は目を合わせて頷いた。
「雪乃ちゃんが大きな声出すから聞こえちゃったのかも。でもさぁ」
二人は目を合わせ、もう一度頷きあった。
「きっとそうだよ」
「だから、私たちに見つかっちゃったらマズイと思って急いで、お家の中に入ったんだよ」
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