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差し出された果実酒を受け取って礼を言うと、穏やかに微笑んだ旦那は座り込んで、さっそく自分のグラスを傾けはじめる。
「昔に戻ることは出来ない。でも、思いを馳せることは出来る・・・」
桜雉も座り込んで、旦那の肩にもたれかかった。
「桜雉、過去に戻りたいのかい?」
「まさか」
最愛の夫である亀助と結ばれた。桜兎という息子も授かった。心から、今が幸せだと言える。けれど時折、ふっと侘しさが襲ってくる夜があるのだ。
果実酒をひとなめして、じっと月を眺めた。
蚕紫。
この研ぎ澄まされた銀の月のように、彼女は美しかった。
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