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剣を手に振り返ると、
「そんな飾り、要らないよ」
と、一蹴された。そう、桜花の一族にとって、剣など所詮は飾りに過ぎない。
「さ、行くよ」
草原を駆け抜け、山を越え、出発してから丸一日。
朝陽に赤く染まった崖の上には洞穴が掘られていて、その穴を抜けると城の裏口へと繋がっていた。
「桜雉は、城に来るのは初めてだったね」
裏口から正面へと歩く母親の背に、うん、と返事をする。桜雉は初めて見る城壁の中の景色を、きょろきょろと忙しく見渡していた。
「良い庭だろう? あいつは造園が好きらしい」
「あいつ?」と首を傾げる桜雉を見て、愉しそうに笑うと、正面の入り口をずかずかと進んでいった。
入り口を警備中の役人たちは、ちらりと母親を見たが、特に咎めることもしない。後ろを付いて行く桜雉は止められそうになったが、母が振り返って「娘だ」と一言告げると、役人はまたすっと前を見据えて、姿勢を戻した。
入って真っ直ぐに伸びる廊下の先、真正面の大きな扉を勢いよく開くと、空席の玉座がポツンと設えられた、だだっ広い部屋が広がっていた。
「ここじゃないか」
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