願い

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「おい、あれじゃねえか」  良平が指差す先に、仏壇らしきものがあった。  ただ、何も飾られてなく、中はがらんどうだった。 「で、この後どうすんだ?」 「んとね、仏壇の前に立って、『夢を叶えて下さい』って、三回言うんだよ」 「よし、分かった」  そう言うと、良平は仏壇の前に立った。 「夢を叶えて下さい。夢を叶えて下さい。夢を叶えて下さい」  良平は、その手を合わせるでもなく、棒立ちに棒読みで唱えた。 「そんなんで大丈夫かな」 「なんだよ、琉斗の言ったようにやったじゃんか」  こういう時、普通は両手を合わせて、頭を少し垂れてするもんじゃないかなと、琉斗は思った。  続けて琉斗も仏壇の前に立ち、夢を叶えて下さいと三回唱えた。  両の手を合わせ、目を閉じ、ゆっくりと。 「おい、そんな風にやるって聞いてないぞ」 「え、だって、やり方までは聞いてないし」 「じゃあなんで手を合わせてたんだよ」 「だって、普通こういう時ってこうじゃない?」  良平は納得いかない顔で琉斗を睨んだが、そのまま踵を返した。 「おい、終わったからもう帰るぞ。道草ばれたら怒られんじゃん」  良平の後に続きながら、琉斗は思った。  おまじないが、願い事を唱えるのではなく、『夢を叶えて下さい』で良かったな、と。  由佳を好きだなんて事、良平にばれたら、即日クラス中に広まって、毎日からかわれるに決まってる、そう思ったからだ。
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