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序 彩られた世界
穏やかな木漏れ日の光る下、小さな影が風と並んで軽やかに走りすぎてゆく。
「はやく、はやく! おいてくよ!」
羽の生えたような少年の後を、さらに小さな少女が必死で追いかける。
「にーちゃ! まって、まってよぉ!」
大きな青みがかった瞳を潤ませて懸命に駆ける。転びそうになりながら追いかけてくる、幼い妹の手をぐっと引っ張った。妹の小さな頭越しに両親の姿を認める。父親と目が合うと、軽く手を振って背を押してくれた。
「吊り橋は渡るなよ、危ないからな!」
父親の声が背にぶつかる。頷いて駆けだすと、手を引かれた妹は楽しそうに叫び声を上げた。
駆けて、駆け抜けると、開けた視界におんぼろの吊り橋が見えてきた。たくさんの修繕の後、補強の後、渡ると今にも落ちてしまいそうなおんぼろの吊り橋。慄いてごくりと唾をのむ。
「さて、行くか、桜梟」
「おとうさん」
頭に置かれた大きな手にほっとする。妹の手を離して父にしがみつくと、少年の手を離れた妹は母親に抱きあげられていた。
踏み出すと、吊り橋は大きく揺れて、ぎぃぃっと悲壮な声を上げる。今にも落ちそうなほど、上下にぐらりと揺れた。
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