出口の消えた店

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朝から部屋にこもって黙々と仕事に熱中していたのは、午後になったらあの店にコーヒーを飲みに行く、という予定を立てていたからでもある。仕事に没頭すればするほど、コーヒーが美味くなるというものだ。むしろコーヒーのために仕事をしているのかもしれない。 壁にかけてあった帽子を丁寧にかぶると、玄関のドアを開けた。途端に秋の新鮮な空気が胸に飛び込んでくる。空は高い。 僕は定期的にそのカフェに行く。行き詰った時、一息つきたいとき、落ち込んだ時、気分が高揚している時。どんな気分にもこの店はフィットするのだ。 15分ほど歩くとその店につく。遠すぎず近すぎず、絶妙な距離にこの店があることも魅力の一つだ。 店に行くには、僕なりのルールのようなものがある。こんな風に住宅街の景色を見ながら歩いていくことが二つ目のルールだ。この時間も含めてこのカフェの魅力だと気付くのに、通い始めてしばらくしてから僕は気付いた。 一つ目?さっき帽子をかぶったこと。ほんの少し身だしなみに気を遣うのは店への敬意なのだ。店主はそんなこと気にしてはいないだろうけど。 カフェではいつもコーヒーを頼む。コーヒーは数種類あるが、実のところ、あまり味の違いが僕にはわから ないし、いつも自分がどれを頼んでいるのかもよく分からない。もし困ったら砂糖でもたくさん入れてしまえば飲めないことはないのだ。目についた銘柄を頼めばいい。 一緒に頼むのはベイクドチーズケーキだ。何の変哲もない味だが、これは定期的に食べずにはいられなくなっている。
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