出口の消えた店

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そしてこのカフェは、実は奥の細い通路で隣の本屋につながっている。 看板も案内もないので、常連しか知らないルートだ。きっと僕はその道を通る時、いつも得意げな顔をしているのではないかと思う。 本屋と言っても非常に小さく、おそらく四畳半もない広さで、置いてある本も限られている。売れ筋の本も少しはあるが、大半は店主の趣味で選んであるとしか思えないラインナップだ。通路は狭く、客はみな体を小さくしながら静かに移動することを強いられる。 コーヒーを飲んだ後、この本屋を物色して、気に入った一冊を買い、そしてさらに奥にある本屋の出口を出るころには、いつもすっかり気分がリフレッシュしている。コーヒーを飲む間は、考え事をするのに最適だし、本を選ぶときはそのことだけに没頭できるという、貴重な場所だ。 さてカフェに着いてドアを開けたが、僕はこの日は何となく、コーヒーを飲む前に、そのまま本屋の方へ入っていった。考えてみれば先に本屋に入るのはこの日がはじめてだ。 いつもの本屋のにおい。うまく言えないが、本屋というより、図書館のにおいに似ている。 見て回る順番は決まっている。雑誌コーナー、平積みを確認しつつ、2か所に分かれた海外文学のコーナーの順。最後には大抵これぞというものが数冊見つかり、徐々に絞ってそのうちの1冊だけを買うことにしている。 だが今日はこのコースを何周しても、店全部を見回しても、どうもこれぞというものが見つからない。面白そうなものはいくらでもあるが、いつももっとどうしても欲しいというぐらいのものが見つかるものなのだが。 想定が崩れ、肩透かしをくらったような気分で、僕はともかくコーヒーを飲むことにした。
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