出口の消えた店

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通路を抜けカフェ側に出ると、異変に気付き、体が強張った。 何かが違う。何だ。 目についたのは壁だ。白と青ではなく、全体がアイボリーというかエクリュ色に塗られ、その上に細かいスミレのような薄紫の花の絵が規則的に並んでいる。 テーブルと椅子の天板の板は白く、細い鉄製の脚は黒いペンキが塗られている。 そしてカウンターの向こうには女性が一人立っている。 微笑んで「いらっしゃいませ」と声をかけてきた。 導かれるようにその場から一番近いテーブル席に座った。 こんな店ともつながっていたのだろうか? 考えてみればあの通路を逆方向から通ったことは一度もなかった。 テーブルに置かれた小さなメニュー表を見ると、紅茶やスイーツが数種類ずつ書かれている。 女性が水を運んできた。 「アールグレイと、オレンジシフォンケーキを下さい」 意外にも主体的にメニューを選んだことが、我ながら何となくおかしくなってきた。 いつものカフェに通う途中でこんな店を見かけた記憶がない。 目立つような看板を出していないのだろうか。そもそも駅から少し離れたこの辺りは、積極的に宣伝するような店は少なく、仲間うちや常連でもっているような小さな店ばかりだ。
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