二十歳

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 唐突な電子音が、二人のぎこちない空気を打ち壊す。  これ幸いと、榛名はポケットで鳴っていたスマホを取り出し、慌ただしい素振りで電話に出た。涼一が掴んでいた手も離れ、このまま寝室に籠って一人になろうと算段する。 『引っ越しセンターです。来週の引っ越しの時間の件でご確認させて頂きたく――』  静かな廊下に、その音はよく響いた。  しまったと思わず振り返ると、眉を顰めた涼一が怒りをにじませた目つきで榛名をにらんでいる。一度外れた手が、今度は榛名の肩をぐいと掴む。  涼一は榛名の手ごと端末を鷲掴み、己の口元に寄せた。 「すいませんが立て込んでるんで、後でかけ直します」  一方的に話すと、電話を切ってしまう。 「榛名さん、どういうこと?」  静かで平坦な声が、彼の怒りが深いことを表していた。険しい顔で見下ろされ、詰め寄られる。左肩と右手を抑えられ、壁に押し付けられた。  寝室に入ってから応答すべきだったと、榛名は己の迂闊さを後悔した。  涼一に黙ってやるつもりだったのだから、もっと注意すべきだった。もう計画通りには行かないと諦め、榛名は正直に打ち明ける。 「来週、この家を出る。仕事も辞める。お前から離れるつもりだ」  ハッと短く笑った涼一の目じりに涙が浮かぶ。     
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