七歳

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 涼一は必死な眼差しで力強く頷いた。七歳なら小学校の手続きも急がなければならない。面倒のかたまりみたいな奴らだ。苛立ちたっぷりのため息を吐いても、親子は目を輝かせて榛名を見つめる。  ああ、嫌だ嫌だ。吐き気がする。  心底嫌気が差して、榛名は手を振って犬猫みたいに彼らを追い払った。  月十万の返済で、全額返済まで二十五年。そのとき自分たちは五十五才。 星野から話を聞いた瞬間に思わず計算していた。やつれて、丸みのある柔らかな面差しもつぶらな丸い瞳も失せた星野を、一生自分の側に置いておけるかもしれないなんて。  高校卒業とともに終わったはずの初恋は、想像以上に榛名の心に棘を食い込ませていたらしい。  二人が帰ったのを見計らったように現れた事務の女子社員が、消臭剤のスプレーをあたりに吹きかけようとする。榛名は首を振って彼女を退出させると、星野の子どもから質受けした袋をつまみ上げる。  手にしたビニールは軽く、軽石でも入っているみたいだ。関節を思わせる複雑な窪みに目を向ける。  どれほど親しい友人だろうと、それだけで三千万の金を貸す馬鹿はいない。星野だって分かっていたはずだ。十年も音沙汰の無い同級生を頼ってくるなんてありえない。それでも恥を忍んで榛名の目の前に現れたのは――。     
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