七歳

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「どうせあんたが死に際に、俺を頼れって星野に言ったんだろ? 俺は昔からあんたが大嫌いなんだよ。今さら俺に星野を押し付けるなんて、信じられない厚かましさだな」  半分砕けた骨に愚痴を言うと、榛名は窓際の花瓶から白いカサブランカを一輪抜き取り、遺骨と一緒に無造作に棚へ放り込んだ。押し付けがましいほどの清廉な香りは、彼女に似た、あの幼子の強い眼差しを思い起こさせた。  鈍い衝撃音に振り返ると、一輪抜き取ったことでバランスを欠いたのか、花瓶が倒れてしまっていた。幸い割れてはいないが、真下に置いていた書類鞄の上にこぼれた水がかかってしまっている。  舌打ちをし、絨毯の上に鞄の中身を広げ、紙に水が滲んでいないか一枚一枚チェックする。すると突然ドアが開いて、ふわりと風が書類を舞い上がらせた。 「すまない。子どもが帽子を忘れてしまって」 星野が顔を覗かせ、入り口の側に落ちていた小さな帽子を拾い上げる。榛名が花瓶の水を零してしまったのを見て取ると、「手伝おうか」と近づいてくる。 「来るな! いいから、行ってくれ」  榛名の強い口調に足を止め、星野はすまなそうに頭をかいた。 「臭いよな、僕。ごめん。……あれ、それってまだ売ってるのか? 懐かしいな」  鞄の脇に転がった、水色の小さなリップクリームを指差す。 「忙しいんだ、出てってくれ」     
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