七歳

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 はっきりとした拒絶に、さすがの星野も大人しく退室してくれた。完全に視界から消えたのを確認して、榛名は詰めていた息を吐き出す。  いつも鞄の隅に入れていたリップクリームは、擦れて印刷があちこち剥げてしまっている。手に取ると馬鹿みたいに軽い。中身はとっくにないのだから当然だ。  これは、星野と彼女のプレゼントを買いに出かけたあの日、選んでくれたお礼にと、星野が榛名に買ってくれたものだった。ピンクのグロスと一緒に購入された、荒れた唇を直すためだけのリップクリームは、それから榛名の宝物になった。いつもファスナー付きの鞄の内ポケットにしまってあるのだが、なぜかこぼれ出てしまったらしい。  まさかと思いつつも、榛名は空の容器を握り締め、棚の中のカサブランカを憎々しげに見上げた。
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