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「榛名さん、分かってる? いますごくいやらしい顔してるよ」
「涼一……」
誘う言葉は恥ずかしくて言えない。代わりに切なげに名前を呼ぶと、榛名の尻から涼一の指が抜けた。物足りなさに喉を鳴らす榛名を、涼一はニヤリと企むような笑みで見遣る。
「決めた。やめとこう。その方が、榛名さんの欲求不満の顔が見られて楽しいから」
意地の悪さに唇を尖らすと、そういう顔をしてくれるから、やっぱりこのままがいいと言われる。
「しちゃったら、榛名さんまた寝ちゃうだろ? もったいないだもん」
ひょうひょうとのろけられ、怒りがするりと抜けた。
――この人たらし。
憎めない性格は星野譲りだ。父親に似ているなんてこの場で言ったら、誤解されそうだ。また子ども扱いしているとむくれてしまうかもしれない。そうは思うものの、この嬉しい気持ちだけは伝えたくて、榛名は自分から涼一の頬にキスをした。
「かわいいな、お前」
ぽっと顔を赤らめた涼一に、榛名はしてやったりと笑みを深めた。
「そこのカフェでサンドイッチとコーヒーをテイクアウトしてくるよ」
涼一はコートと財布を手に、気だるげにソファの上で横になる榛名のそばまでやってくると、ちゅっと音を立てて頬にキスを落とす。
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