十二歳

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 皮肉たっぷりの言い回しはいつものことだ。養子縁組をしたからと言って、いきなり父親らしく振る舞うことは出来ない。それでも涼一はテーブルに突っ伏したまま、何も言わない。 「……」  沈黙に負けた榛名が、再び口を開く。 「おい息子、水持って来い」  涼一はふっと口元だけで笑うと席を立ち、ミネラルウォーターのペットボトルを持ってきてくれた。榛名が飲む間も、傍にぼんやり立っている。榛名は半分まで一気に飲み、残りを涼一に差し出した。涼一も喉が渇いていたらしく、残りをすぐに飲み干してしまう。 「……風呂、入れてくる」  どこかぼんやりとした足取りのまま、涼一は風呂場へ消えた。星野が入院してから、風呂と朝食は涼一の仕事だ。  週に一度、掃除と洗濯を家事手伝いの業者に頼んでいるが、これからずっと二人で暮らすならば、正式に家政婦を雇うべきかもしれないと榛名は思う。  涼一はしっかりした子だが、毎日店屋物ばかりの夕食では、外聞が悪い。先週、涼一にゴミを出しに行かせたら、同じマンションの住人に「ちゃんとしたごはん食べてるの?」とピザの空き箱と弁当の空ばかり入ったゴミ袋を見て話しかけられているのを見てしまい、気まずかった。お人好しの星野が自治会の役員を押し付けられ、渋々務めたこともあり、奥さん連中は涼一のことを気にかけ、よく声をかけてくる。     
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