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こんな時に引き合いに出されるなんて、安売りされたようで我慢ならない。
「親友ヅラして、金貸せって言いに来たのか?」
一度ぶり返した胸のざわつきは、なかなか静まらない。優越感の滲んだ、あの女のくっきりとした視線に今も晒されている気がして落ち着かなくなる。
「そんなつもりじゃないけど……」
「どうせ返す能力なんかないだろう。一万やるから、二度と来ないでくれないか?」
岩下が口笛を吹いて、「太っ腹だねぇ」と茶化す。
「いつか必ず返すよ」
星野は床に両膝をついたまま、必死な形相で榛名を見上げる。その姿を、榛名は鼻で笑った。
「そうだ、なんか歌えよ。そしたらお前の歌に、一万払ったことにしてやるからさ」
「え……僕、歌が苦手なの知ってるだろ」
嫌がらせと分かっていても、こいつに断る権利なんかない。情けなく歪む顔を、榛名は意地悪く笑った。
「なんでもいいから。ほら、早く」
星野は昔と同じ外れまくった音程で、恥ずかしさに顔をさくらんぼみたいに染め上げながら歌った。昔の特撮ヒーローの歌で、勇ましい歌詞が星野の哀れさを一層引き立たせる。
「聞こえない」
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