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榛名の中の敵愾心が、不幸を願わずにはいられない。
「ここにいるよ」
子どもらしい高い声がぽつりと答えた。もとは水色だったのだろうが、今は灰色同然のいかにもしょっぱいリュックを下ろすと、星野の息子は先の結えられたビニール袋を取り出した。二重に包まれた中には白い石がいくつも入っているように見える。
「それが母親?」
「ぜんぶはもってこれなかったけど、手のほねはみんな入れた」
星野の息子は、胸を張って答えた。榛名を見つめるはっきりとした二重の目は、確かに隣りのクラスのあの女の子のものだった。
彼女が榛名の気持ちを見透かしていたにもかかわらず、星野を含め、誰にもバラさなかったのを思い出す。小憎らしい女だったが、卑怯な真似の嫌いなまっすぐな性格で、だからこそ星野は彼女を好きになった。きっとこの子も、彼女の気質を受け継いだ、星野に愛されるすべてを持っているに違いない。
「君の父親が俺に何を頼みにきたか知ってるか?」
「ともだちだからぼくたちのことたすけてくれるって。……おかね、かしてくれるって」
しおしおと枯れる花のように肩を落とす姿は不憫で、きっと普通の人間なら涙するんだろう。
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