七歳

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「友達だからって三千万の金を貸す馬鹿はいない。普通は家とか土地なんかを代わりに差し出すもんだ。金が返せなかったときは、家を売って返しますってさ」 「おうち、もうないよ。おじいちゃんちもない。くるまもないから、いっぱいあるくの」 「そうだ、お前の父親は何も持ってない。そこの薄汚れたバッグ一つが全財産で、あとは借金だけだ」 「おじちゃんもぼくたちをたすけてくれないの?」 「助けない」  冷やかに宣告すれば、星野の息子は俯き、ふっくらとした唇を噛んで息を詰めた。長いまつ毛の下から幾粒もこぼれた涙は、丈の足りない、染みのついた袖で拭われる。星野も同じ素振りで涙を拭いていて、シンクロする動きに、親子だなと榛名は滑稽に思う。 「一つだけ教えてやるよ。本当に助けてほしいなら、代わりに何かを差し出さなきゃいけない。言葉とか気持ちなんてものじゃ駄目だ。目に見えるものでしか、俺は納得しないんだよ」  星野の息子は榛名を睨むように見据えると、手に持ったビニール袋を差し出した。星野が口元を手で押さえ、嗚咽を飲み込む。 「……お前、名前は?」 「ほしのりょういち」  意志を持った瞳がまっすぐに榛名を見つめる。榛名は星野の息子と視線を合わせたまま、ゆっくりとその手から彼の宝物を受け取った。 「言っておくが、金は自分で返してもらうからな。俺はそのための助けをしてやるだけだ」     
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