七歳

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 手早く作った書類を差し出すと、星野はそれしか言葉を知らないみたいに、何度も「ありがとう」を繰り返しながらサインをした。   たちの悪い金融屋から借りた星野の借金は、早く手を切るためにも、榛名自身が肩代わりして一括で返済するつもりだった。何年かかったとしても、三千万を返済させることには変わらない。それに返済を榛名が代行することにすれば、星野は気づくまい。  契約書と引き換えに、榛名は自分の部屋の鍵と数枚の万札を渡した。 「お前らの鼻が曲がりそうなその臭い、風呂でも入ってどうにかしろ。ついでに部屋の片づけもして、俺が帰るまでにメシの支度もしとけ。どうせ子どもはカレーかなんかで十分だろ」  声も出ないほど感激しているらしい星野は、涙ぐみながらこくこくと頷くばかりだ。傍らの星野の息子、涼一(りょういち)は真一文字に口を引き結んだまま、てきぱきと手続きを進める榛名をじっと見つめていた。 「涼一、お前も働けよ。俺のマンションにある一番狭い部屋を片付けて、自分たちの荷物はそこに置くこと。俺の部屋に置いて、臭いが移ったら困るからな。それと俺は不味いメシは食べないから、前もって味見をしておくこと。俺が言ったこと、全部出来るな?」 「うん! 出来る」     
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