十二歳

1/8
673人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ

十二歳

 この五年後、星野はすい臓がんで亡くなった。  症状を自覚したときにはもう手遅れで、ほんの二か月入院しただけで逝ってしまった。  星野の子どもである涼一は十二才、小学校六年に上がったばかりの時期だった。  通夜では目を腫らして泣いていた涼一だったが、葬式では硬い表情のまま、涙を見せなかった。榛名が何も言わなくとも、自分の身の振り方が、よそよそしい大人たちの間で決められるのだと分かっているようだった。  星野の子どもを誰が引き取るかという問題は、あっけないほどあっさり決着した。  星野の母親は既に亡くなっており、星野の父親は高齢な上、入院中で物理的に無理だった。他の親族は借金の残りを払わされるか、面倒事を押し付けられると思ったのだろう、葬式自体ほとんど来なかった。  榛名はそれぞれに電話や書面で確認を取り、涼一を榛名の養子として引き取ることで段取りをつけた。     
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!