はじめに

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はじめに

 日本列島を北と南に分ける中央構造線に沿って、紀伊半島の付け根に紀ノ川が流れている。 その流れに沿って、国道24号が走る。途中に田舎作り風の大きな建物。今、流行の道の駅だ。  春の頃、この道の駅、他では見られないすごい景色が見ることができる。  ぎっしり詰まった何十本ものソメイヨシノが散歩道に沿って青空をピンクに染めてしまう。満開の頃、弁当片手に散策すると、遠くでヒバリの声が響く。  紀ノ川の流れにしなる釣り竿を遠目に、ぼんやり景色を眺めながら思い出すのは三十代の頃の研修員時代。  岸辺に座り、弁当を開くと、春の香りが。  桜の花びらが、ひとひら春の風に吹かれ、目の前に舞い降りる。  キラキラ光る川の流れと心地よい春の風、ピンクの空、これ以上ない幸せ感の中、想いは三十数年前にタイムスリップしていく。  私の名前は、神前良夫。和歌山市で小学校の教員をしている。今年1年間、教員養成センターで研修員として活動する。センターの正式な名称は、県教育委員会教員養成センター。れっきとした教育委員会の組織の一つだ。その建物は、和歌山市東部の山のふもとに位置し、真っ白い3階建て。屋上には天体ドームが備えられ、とてもおしゃれな外観だ。周りは緑の田畑に囲まれている。県教育委員会がこれからの小学校、中学校で教育指導力を高め、管理職の資質を備える教員を育成するために立ち上げた事業で、今年で5回目の中堅教員養成事業である。  和歌山県の各市から校長推薦や各市教育委員会の面接を受けて1年間、センターで研修員として活動していく。  今回、県内各市から集まってきたのは、私を含め男性6人、女性2人の合計8名。
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