最終章:再び、雨が降る

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「薬を飲んで、後悔したことってある?」 「今まで一度もなかった。それ以来、女性と関係を持つようなこともなかったし、結局、僕は男の機能をまったく使ってなかったんだなって思った」 「なんだかもったいない話ね」 「でも、そのおかげでΩの発情期フェロモンに気づいても、体は反応しない。だから理性を失うこともない。君とはじめて会ったとき、もうすぐ発情期だってわかったけど平気だったでしょ?」 「そうね。発情期の治療のときもそうだったわ」 「治療……あー、うん」  向井はわかりやすく咳払いをした。 「でも君とキスした夜、あの日は君を抱きたいって思った。君は同情だと思うかもしれない。でもあのときの僕は、もう君のことが好きだったから」  リンダと言い争った夜、向井は慰めてくれているのだと疑わなかった。そして、キスを重ねるうち、清史の下半身が熱を持ち始めたのだ。 「君の体は反応していたのに、僕の体が反応しない。僕が普通の体なら、絶対に抱いていた。あのときは、本当にこの体が嫌になった」  はじめて、向井の気持ちに触れた気がした。ごめんと謝られた夜、清史は、向井の気持ちを正反対だと思っていた。清史の一方的な思いに応えられなくて謝られたのだと思っていたのだ。  清史は、ずっと聞きたかったことを聞いてみることにした。 「先生って男は平気、なの?」 「ああ、そういえばなんとも思ってないね。もちろん君のことはレディだとは思ってるけど、女の体だったらいいのに、なんて思ったことはないからね」  あれほど、超えるのが難しい性別の壁を、向井は何も気にしていなかった。言われて初めて気づいたとばかりに、笑っている。 「それなら安心したわ。なんの問題もない」 「うん。僕は、今の君の全部が好きだから」  ぎゅっと向井が清史を背中から抱き締めてくる。温かい湯に使っているからじゃない。向井の愛が温かくて心までぽかぽかする。 「ねぇ、今夜からまた、一緒に寝てもいい?」 「それ、僕もお願いしようと思ってたところだよ」 「決まりね」  清史は振り向きながら、向井にキスをねだった。そんな清史に向井は嬉しそうに笑って、唇を重ねた。それは、胸がぎゅっと詰まって幸せな気持ちになれた。 「簡単なことだったのかもね」 「何が?」 「なんでもない」  清史は、ふふ、と漏れてしまう笑いを気づかれないように隠した。
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