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傾斜はすでに大分緩やかになっており、道なりに歩いていけば特に何事もなく目的地にたどり着けるはずだ。どうせこの道は一本道なのだから。
トンネルを出て、十数分ほど歩いたころ。俺の体内時計ではトンネルの中にいた時間の方がずっと長く感じられたが、実際はいつの間にか随分と歩いていたようだ。俺はとうとう目的地に到着した。
古いトンネルの入り口。数メートル手前には中に人が入らないように二メートルほどの高さの柵が設けられている。
茫茫と乱雑に生えた雑草の上から中を覗き込むと、一瞬にして身体中に鳥肌が立った。そこにあるのは、何もない、完全な無。
そこに無がある、というのはいささか滑稽な言い方のようにも聞こえる。その空間には確かに、地面があり、トンネルの天井があり、空気がある。そのはずであり、それは事実である。しかし、それを一切感じさせず、我々が受け取ることができるのは光もなく音もない、圧倒的な静寂。まるでブラックホールであるかのようなその空間の異様さは、無があるという言い方が最も相応しいと思えるのだ。
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