開かずの

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 開かずの間。この場所がそう呼ばれるようになって、しばらく経つ。  もともと長いこと使われていなかったこのトンネルは、二年前の土砂崩れで一部が損壊したことをきっかけに、双方の入り口に蓋をされた。  扉もない鉄の板を前に立ち、手を繋ぎ目を閉じる一組の男女の姿。  いまとなっては誰も見ることのできないこの空間には、何があるだろうか。何がいるだろうか。  かつてそこには、(ナニ)カがいたのだ。彼らはそれを知っている。  開かずの扉。そのはずだった。  それは現実の扉であり、心の扉でもあった。  開けたのは、彼ら自身。しかしそれを後ろから押したのは、たしかに(ナニ)カであったのだ。  彼らは心の眼を(ナニ)カに向け、感謝をささげる。
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