縁結び食堂はなやま~カキフライ定食編~

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いつもと同じ店で、いつもと同じメニューを食べているのではダメだという本を読んで、影響を受けて、初めて入った食堂で、初めてカキフライを食べたはずだ。 なのに俺は今、昨日と同じ食堂の前にいる。 いや違うんだ、違う店で違うものを食べようという意思はあったんだ! ただ仕事のキリがつかなくて、14時を回ってしまった。 14時を回るとどうなるか? 多くの飲食店が中休みに入る。 せめてチェーン店は止めようと思った結果がここだ。 昨日営業時間をチェックしておいてよかった。 引き戸を開けて入ると、ランチタイムが終わったせいか客は他にいない。 昨日見なかったおじさんが、カウンターで新聞を読んでいた。 「…いらっしゃい」 この時間に客が来るとは思っていなかったというような顔でイスから立ち上がる。 「えー…と、カ…いや、えーと、サバの味噌煮定食」 カキフライと言おうとして、ギリギリで、昨日迷ったほうのメニューを注文した。 せめて違うものを食べようという意思を通した。 「はいよ」 無愛想というわけではなさそうだが、昨日のおばさんに比べればだいぶ愛想のない返事。 カウンター奥の厨房へと入って行く背中。 微かに、鼻歌が聞こえる。 悲しみはー雲のー果てにー 悲しみはー雲のー果てにー …まじか。 ということは俺が間違っているのか? スマホで調べた結果、間違っているのは俺じゃなかった。 正しい歌詞を知ったところで、どうということもないけど。 カウンター越しにサバの味噌煮定食を渡してきたのは昨日のおばさんで、どうやらこの店は夫婦でやっているらしかった。 厨房で楽しげに話す声が聞こえてきて、仲よさそうで、夫婦で店やるのもちょっといいな、と思った。 サバの味噌煮定食も美味かったけど、昨日ほど感動はしなかった。 明日こそ違う店に行くぞ、と心して仕事へと戻る。 途中、コーヒーを買って戻る気になって、コンビニに寄った。 …こういうときも、いつもと違うものを選んだ方がいいんだろうか。 いつもは微糖。 …ブラックというのも、つまらない。 考えて、コーヒー牛乳にしてみた。 初めてではないし子供の頃はよく飲んだ。 でも、最近飲んでないものを選ぶのも、アリじゃないか?
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