第五話 6と6・5のつるぎ

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──ある平凡な夫婦が七つのつるぎになったきっかけについて。 1985年7月某日。初のスターサバイバーが中国に襲来して1年が経過。 日本は埼玉県所沢市の住宅街にあるアパートの屋根に、突然穴が空いた。 一匹のスターサバイバーが落下したのだ。 住民は父母と4歳の長男と、3歳の長女による四人家族だった。 近隣でスターサバイバーの出現が確認され、路地に設置された警報が鳴った。一帯の住民は自宅に避難していたが、運悪く、異星人は平凡なその家庭に降り立ってしまう。 時刻は午後6時30分、母親と娘はお風呂に入っていた。 スターサバイバーが降り立ったのはキッチンで、父と息子はその隣の寝室にいた。 母ははじめ、地震が起きたのかと思ったが、風呂場で耳を澄ませると、住み慣れた我が家を体重の重い生物が移動していることに、すぐに気付いた。 彼女は湯舟で娘を抱き締めると、自分も声を殺して「しー」と指を立てた。日ごろよくぐずり、夜泣きもひどく、手のかかる娘だ。 母親を睡眠不足にして困らせたが、この緊急時ばかりはママの言うことを素直に聞き、自ら口を塞ぐようにして、両手を重ねた。 寝室にいた父親は、自宅の異変に気付き、息子を布団にくるんで、「お願いだから言うことを聞いてくれ」とフスマの向こうに隠して静かにするように言った。 そしてゆっくりとドアを開け、リビングを経由してキッチンを確認しに行った。 この1分にも満たない間、どういう訳か、父親の脳裏には息子の成長過程が浮かんでいた。  
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