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父親は知る由もないが、孤独な星に生まれ、いくつかの微妙な派閥こそあるが、同胞こそ天敵であり、共食いをする種族のため、同種の鋭い前肢や大あご、消化液に耐えるため、その外殻のほとんどは硬く、油に似た体液で保護するよう進化していた。
よって、包丁一本を持った成人男性の手で殺害するのは、至難の業だった。
刃の衝撃を感じた瞬間、そのスターサバイバーは後ろ肢をびゅおんと振り回した。人間だったら頭の周囲を飛び交うコバエを掃うような、脊髄反射的な自己防衛本能だった。
しかしその衝撃は時速50キロのスピードで走る車のバンパーにぶつかるのと同じ威力を生む。
父親は右半身に衝撃を受けると、右腕は骨折し、左顔面を洗面台に叩きつけた。
軽い脳震とうを起こし、その意識が途絶える。
通常だったら数分から十数分の気絶となるが、彼は覚醒のきっかけを得る。
「パパ!」
息子の声だった。彼の息子は親の言いつけを守らず、様子を見に来ていたのだ。
「にげろぉ」と自分では言っているつもりだったが、実際には首を絞められた子熊のように唸っていた。
意識が朦朧とし、吐き気がするような、鈍痛が顔面の内側を駆け巡っていた。それでも、息子にそう言っていた。
再び、「パパ!」と声が聞こえ、小さくて冷たい手が、自分の首や肩を握るのがわかった。
しかし間もなく、我が子の気配が遠ざかるのもわかった。
スタサーバイバーが、その残酷な前肢で、息子の身体を吊り上げたのだ。
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